■旅行記 ”日本一周旅行”  6日目 : 北のオアシス  (1996.08.13 Tue)

 「日本一周を果たすんだ」と思っていると、つい先を急ぎたくなってしまう。今までそのような経験をしたことも、そんな経験談を聞いたこともないので、どれくらいのペースで走ればよいかが分からない。だから余計に焦ってしまうのだろう。当然だけれど、ゴールが見えないことほど不安になることはない。
 しかし、昨夜は夜の9時に札幌に着いて、それから結構夜中まで家の人と話し込んでしまったから起きるのが遅くなってしまった。さらに、「札幌を車で案内してあげる」と言われ、さすがにその厚意に先を急ぐ気も失せてしまった。
 今述べたように、起きたのは本当に遅かったのだが、起きてから、ふと外の景色を見た。昨日到着した時は既に暗かったから何も分からなかったが、目の前に広がっているのは緩やかな傾斜を帯びた草原だった。手前には小川と、その周りに大きな木がいくつかあって、草原はその向こうで輝いて見えた。草原の向こうには定山渓へとつづくであろう山々があった。いい天気だ。そして涼しい。これが北海道なのだ。
 札幌の市街地まで車で20分という、特に田舎というわけでもないのに、目の前にはこんな夢のような風景が広がっていて、そして何より蒸し暑さがなくてとにかく過ごしやすい。ただ目の前の風景を眺めているだけで、そしてその庭先で、ただ目を閉じて深呼吸しているだけで、僕は本当に幸せそのものだった。ここまで来れたこと、そしてここまで来てこうして手厚く迎えてくれる人たちに恵まれ、両親や、そこから脈々とつながっていく親戚の方々に感謝気持ちが浮かばないわけがない。
 さておき、それから札幌観光に出掛けた。冬季五輪で有名なジャンプ台へ行ったり、市街地を周ったり、羊ケ丘展望台も案内してくれた。時計台は改修工事か何かであまり見られなかったが、僕はクラーク博士の全身像が見られただけで既に満足だった。
 そして何より、いろいろな意味で遠いとはいえ、そんな僕に構ってくれる親戚の方々とこうして話をしながら過ごしている時間に満足した。
 明らかに自分の中で気持ちの変化があった。この旅行に出る前は、とにかくお金はないけどバイクで周りたいという気持ちばかりが先行してしまって、とにかく先へ先へ、自分の目標を達成してと、そればかり考えていた。もちろんお世話になるべく前もって連絡をして、それを期待して伺い、もちろんお世話になれば恐縮と感謝の気持ちでいっぱいだけれど、恥ずかしいけれど正直な話、それ以外は何も考えていなかった。しかしそれが崩れたというか、丸くなったというか、日本一周が目的であるけれど目的でないような、矛盾した気持ちを生じた。僕はそんな自分に静かに驚いていた。
 さて、夜になり、お盆だということで近くの親戚がみんなで集まりお墓参りに出掛けた。そこでもまたさらに多くの人に会うことになるのだが、一人旅だというのに、本当に多くの人に恵まれて、そして助けられ、何より励まされた。
 不思議ながら、思わぬ充実感の中に以前より小さくなった自分がいた気がした。

 
夜が明けて庭先を見渡してみると、牧草地帯と見紛う風景がそこにはあった。


【走行距離】 本日:走行なし / 合計:1,341km
北海道札幌市南区

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