■旅行記 ”日本一周旅行” まえがき

 どうして日本一周旅行などに出掛ける気になったのか。呆れた調子で訊かれることがよくあるけれど、それにはいろいろな理由があって、「そこに山があるからだ」とか、「旅することは生きること」などと一言では言い表せない。脇目も振らず飛び出したようでもあり、随分前から静かに意識していたようにも思える。気まぐれと言えばそれで片付いてしまうし、でも何か、強い意志を抱いていた気もする。
 暇はあるが、お金はない。でも夏休みという長期休暇にしか出来ないことをしたかった。その翌年は4年生だから何かと忙しいだろうと思うと、冒険のチャンスは今しかないと思った。遠く離れた親戚や友人を訪ねたい。買ったバイクで遠出がしたい。そんな思いはもちろん、ちょっと背伸びをすれば出来ることの中で、自分が憧れていること、自信を失っていた自分でもちょっとは誇れる何かがやりたかった。当時の自分は、ただそれだけだった。
 福島の友人や、行ったことのない北海道の親戚を訪ねてみたかった。馴染み深い長野県白馬村へもまた行きたいし、関西地方では滋賀の大津や大阪の堺、三重の桑名などに知り合いや親戚がいた。近場では茨城の土浦や神奈川の伊勢原だが、10年以上も訪れていない、生まれ故郷の千葉県我孫子市はどうなっているだろうと気にもかかっていた。
 こんな風に一度にあれもこれもとなると、「いっそのこと、一度にぐるっと周ったほうが早そうだな」と、正直、安易な結論に至ってしまった。大胆不敵なんだか、合理主義だか、単なる貧乏性が災いしたかは知らないけれど、これが動機の一つであることに違いはない。そこに、「高校時代に行った長崎は今どうなっているだろう」、「僕が尊敬しているカヌーイストが愛した四万十川ってどんな川で、四国ってどんな国なんだろう」などという自由研究をちょっと加えてみたかっただけである。


出発の数日前に友達と会ったときに撮ったもの。
まだバイクには長旅用の細工をしていない。
旅行の実感もなく、まだのんきそのものだ。(08.06)

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